今、企業におけるメンタルヘルスの問題が、社会課題となっています。
メンタルヘルスを起因とする欠勤、離職が増える中、国としても対策に乗り出し、
経済産業省は、健康経営優良法人認定制度を、
厚生労働省は、ストレスチェック制度を義務付けるなど工夫を進めています。
※「健康経営」:従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。 企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。(経済産業省HPより)
ポイントは予防!
メンタル不調や、そこから来る体調不良の従業員が現れた場合、企業規模が大きくなればなるほど、リスクを冒せないため「病院にいって薬を処方してもらう」等の手段に、なりがちです。
しかし、薬の処方は、あくまでも対処療法です。
薬自体が治すのではなく、免疫力や自己治癒力等、最後は自分自身の中にある力が治してくれます。
昔から心身一如というように心と体はつながっています。
メンタルヘルスといえど、心身の健康をトータルで促進することが必要です。
では、日頃から、従業員のメンタル不調をいかに予防し、
心身ともに健康でいられるよう、何をどう取り組むか?
その一つのヒントとして、「笑い」の効果効用を、企業のメンタルヘルス対策の観点で、5つの観点から紹介します。
心身をリフレッシュできる
最も酸素供給量の多い動作(=呼吸)が笑い
人間の生命活動に最も重要なのが酸素です。
食べ物や飲み物は、もしなくても何日も生き延びることができますが、酸素なしには生きられません
あの故・野口英世博士も
「すべての病気の原因は酸素欠乏症である」
と著書の中で書かれています。
肺から取り込まれた酸素は、血液に溶け込み身体中へと運ばれ、全身の細胞へと供給されます。
そして、この酸素を最も取り込める呼吸の仕方が「笑い」なのです。
笑うことは、腹圧がかかることで、肺の下にある横隔膜が動き肺の中の二酸化炭素など余計な空気を出す助けになります。また、「はっ」という発声は最も息を出す量の多い発声法です。
つまり、笑うことは「はっはっはっ」と、短時間に何回も息を吐く動作とも言えるのです。
副交感神経優位にさせるリラックス力
また、笑うことで筋肉がゆるむことも重要なポイントです。
メンタル不調の方は、無理をしながら一生懸命頑張ってきたからこそ、表情筋も、全身の筋肉もゆるんでいないことが多いです。
しかし、笑うことで横隔膜が動いて副交感神経も刺激されますし、それと合わせて深呼吸やリラクゼーションの時間をゆったりもつことで、より深くリラックスを感じられます(不眠解消にも直結!)。
そして、全身の筋膜(画像青字部分)がゆるむことが、血液循環を促進します。
実は、全身の血管は筋膜という膜で覆われています。緊張していると、その筋膜にもギューーっと力が入って、血管も収縮し血液循環しづらい状態になってしまうのですが、リラックスしてゆるむことで血管もゆるみます。
しかも、「10分間の笑いは30分間のエアロビクスに相当する有酸素運動量」と言われるほど、全身運動を行うため、全身で血液循環が促進(=酸素供給)されます。
笑うことは、肺から取り込んだ酸素が、さらに全身に行き渡りやすくなる助けにもなるのです。
こうして全身運動で体温が高まれば免疫力アップにもつながりますし、がん細胞をやっつけるナチュラルキラー細胞が活性化されることも研究で明らかになっています。
「笑いは百薬の長」、沖縄の方言でも「笑てぃ腹ぐすい(わらてぃ はたぐすい) “笑うことは元氣の源になる”」といった言葉が残っているように、「笑い」は、昔から人間が本能的に大切にしてきた動作なのです。
人間関係(=職場の雰囲気)がよくなる
ミラーニューロンで楽しい雰囲気が伝染
人間の脳内には、ミラーニューロンと呼ばれる神経細胞が存在しています。
この神経細胞は、相手の感情をコピーしてしまうという特徴を持ちます。
自分の意思に関係なく、相手の表情や態度を脳が鏡のようにコピーして、同じような感情を自分自身も感じやすくさせるという特徴があります。
例えば、
・職場に不機嫌な人がいると、こちらまで不機嫌な気分になる
・辛いことがあった人の話を聴いていると、こちらまで辛い気持ちになる
・ニコニコ笑顔で上機嫌な人がいると、自然と雰囲気がよくなる
このような経験ってないでしょうか。
これぞまさにミラーニューロンのなすわざで、自分に何が起きたかどうかを別にして、人間は相手や周囲の感情の影響を受けやすいのです。
このミラーニューロン効果が上手に活用されているのが、笑いヨガ(ラフターヨガ)です。
最初は、動作として笑うところからはじめますが、アイコンタクトをとることで、自然と伝染されていきます。
もし、全員が無表情でどんな人かわからない状態だったら、脳は不安を感じて警戒します。
怒っている人なんかいたら、さらに警戒せざるを得ません。
しかし、笑いヨガ(ラフターヨガ)では全員が一斉に笑う動作をするため、脳は
「ここにいる人は全員楽しく笑っている」
「ここは安心で、安全な場」
と捉えて、
警戒する必要がなくなり、安心、そして楽しさが伝染してくるのです。
最初こそ動作としてはじめますが、すぐに本物の笑いに変わるのが特徴です。
前に立つ人のリードの仕方で変わる所はありますが、理屈はこの通りです。
実際、最初はぎこちなくても、最後はリフレッシュできて、雰囲気が良くなったと多くの方が感じられます。
そして、普段見せない、ありのままの姿を互いに見せ合うことも職場の雰囲気が良くなる大きな要因と言えます。
犬がお腹を見せるように、自分の緩んでいる姿、楽しんでいる姿を見せ合うことは、周囲との関係を自然に深めます。
感情労働対策になる
感情労働とは
「感情労働」という言葉をご存知でしょうか。
近年注目されている新しい概念で、社会学者A・R・ホックシールドによる言葉です。
感情労働:相手(=顧客)の精神を特別な状態に導くために、自分の感情を誘発、または抑圧することを職務にする、精神と感情の協調が必要な労働のことをいいます。
主な職種の例として、「看護師」などの医療職や「介護士」などの介護職、「客室乗務員(CA)」などが挙げられます。
他にも、コールセンターのオペレータ、官公庁や企業の「広報」、「苦情処理」、「顧客対応セクション」など、自分の感情を抑圧、コントロールする必要がある職種が該当します。
肉体労働は重労働などの肉体を使った分が評価され、
頭脳労働は新しいアイデアや戦略立案や計算が評価されますが、
感情労働は、「感情を抑えること」が評価される考え方です。
つまり、評価されるべきほど負担があるということです。
感情解放ツールとしての笑い
この抑圧感情を抑圧したままにすると、人間は心身共に不調をきたしてしまいます。
バングーバー在住の医師・ガボール・マテ著『身体が「ノー」と言う時 抑圧された感情の代価』の一文を紹介します。
多くのがん研究にいちばん共通してあげられているリスク要因は、感情、特に怒りに関わる感情を表現できないことである。怒りの抑圧という性格特性が病気を呼び寄せるのは、不可思議な抽象的な力が働くせいではない。それが人間にかかる生理的なストレスを増すからこそ、主要なリスク要因なのである。それは単独で作用するのではなく、それに伴うことの多い他のリスク要因ー絶望感や周囲からの支援の欠如などーと一緒になって作用する。
「ネガティブ」な感情を感じない、あるいは表現しない人は、たとえ友人に囲まれていても孤立してしまう。本当の自分が見えていないからである。絶望感は、心の深い部分でいつも自分に正直になれないために生じる。さらに絶望感は無力感につながる。何をやっても同じだという気になるからである。
だからこそ、抑圧した感情を「解放」する必要があるのです。
そして、それには「笑うこと」が非常に効果を発揮します。
誰でも、泣いたり笑ったりスッキリした経験があると思います。
それを心理学ではカタルシス(=感情の浄化作用)と呼びますが、笑うことが及ぼすカタルシスの効果は相当なものです。
ですから、お笑い番組等をみたり、吉本新喜劇にいったりして大笑いするのもオススメです。
実際、今の時代は、Youtubeで笑って気分転換されている方も少なくないと思います。
さらに選択肢にご提案したいのは、「自分で笑う」という方法です。
いきなりこれだけ聞くと頭に「?」が浮かぶ方もいるかもしれませんが、これができたら究極とも言えます。というのも、笑えるか、笑えないかの選択権を自分で持つことができるからです。
実際、私たちも研修の中で一人でも笑えてしまう方法をお伝えしますが、ちょっとしたコツで、すぐにやれるようになります。しかも、楽しみながら!
これも重要なトピックなので、こちらは改めて記事を作成してお伝えします。
自信、自己肯定感に直結
笑う=自分を肯定すること
笑うと、自己肯定感が高まります。
なぜなら、笑う=喜びの感情を感じることを自分自身に許可することだからです。
これは精神論ではありません。
笑うと大量の幸福ホルモンが出ることが科学的に証明されています。
ドーパミン、エンドルフィン、セロトニン、オキシトシンなど、快楽を感じたり、幸福を感じたり、親しみを感じたり、安らぎを感じたり、いい氣分にさせるホルモンが大量に分泌されるのです。
ポイントは、「笑うことは、無条件にしあわせを感じてしまう動作」であるということです。
(そういう身体のつくりになっている)
凝り固まった筋肉がほぐれて、神経回路も慣れて、
脳が違和感を感じなくなりさえすれば、
つまり、笑う時に使う筋肉の動作に、脳の神経回路が慣れさえすれば、
人間は笑いさえすれば、幸福を感じることができます。
逆に、笑わないでいると、これらのホルモンが分泌されないため、幸福感からは遠のいてしまいます。
つまり、笑う選択は、自分自身がしあわせであることへの許可なのです。
そして本来、しあわせであるかどうかは、自分自身の主観によるものです。
他者や、社会環境によって受けた影響でいつのまにか「幸せの定義」がそれぞれにあるかもしれませんが、最終的にしあわせかどうかを決めるのは、自分自身です。
どんなに大変でも、どんな不遇があっても、どんなに辛くても、
感情に振り回されるうちは、感情の奴隷です。
しかし、もし、その感情に自分で気づくことができて、
客観視しながら、その感情を吐き出すことができたら、
それは感情の主人です。
不思議な話ですが、笑うことは、そのことを助けます。
いちいち感情に振り回されることが減ります。
よく笑うようになった人は、一切ポジティブになりましょうとか、笑い飛ばしましょうとか、指示を出していないのに、自然と「笑い飛ばす」「笑い話にする」ことができるようになります。
笑いがあると、勝手に物事の捉え方まで変わってしまうのです。
(※抑圧感情の解消の仕方については、「だって人間だもの」の世界で、本当に辛くて笑えない時は笑えなくて当然なので、ありのままの感情を感じて、吐き出すことも大切です。その方法としてはジブリッシュがオススメです。→別記事で改めて投稿します。)
手軽に、簡単に取り入れることができる
短時間でもOK!
笑いの効果を得るための目安時間は15分〜20分と言われています。
これくらい笑う時間をもてると、免疫力が高まる等の健康効果を期待できます。
また、たとえ1分だとしても、気分がスッキリとリフレッシュされることは体感できます。
私自身、新卒で入社した就職先の企業では、朝礼に笑いヨガ(ラフターヨガ)を取り入れさせてもらっていました。新入社員が無理矢理やらされるのではなく、やりたがって前に出るというのも変な話ですが。
慣れてくれば、1分〜2分でも、やるとやらないとでは大違いです。
新鮮な酸素を体内に取り入れ、全身運動で全身を活性化させることで、気分転換等のプチ効果を期待できます。
コストが低い or かからない
笑うこと自体は無料です。特別な機器を導入する必要は全くありません。
センスのいい方であれば、閃き次第で、様々な笑いのタネを車内に持ち運べるでしょう。
また、研修やセミナーを実施するというのも、有効な手段のひとつです。
やはりプロはプロであるだけの理由があります。お笑い芸人さんや、笑いや笑顔のスキルを磨く講師の方で、企業研修や講演をされている方はたくさんいるので、気になった方をお呼びして、社内で笑える時間を共有する、スキルアップすることも可能です。
最後に
しかし、笑うことがいかに素晴らしいと頭でわかっても、体がついていかない。
「そんなすぐに笑えない」という方が、最初はほとんどです。
全員が全員、最初から笑えていたら、メンタルヘルス課題などないはずです。
また、その一時は楽しくても、すぐに現実に引き戻されてしまう場合も多いです。
・ストレス発散のためにやけ食いをする
・大量に物を買って発散する
・お酒を飲みまくる etc..
といったことをしても、場当たり的な解消にしかなっていないように。
その場しのぎではない、持続可能な笑い
だからこそ、持続可能な笑いが大切です。
今、SDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」が注目されていますが、笑いにも通じるところがあります。
もし、自家発電で、自ら笑って愉しく生きることができれば「持続可能な笑い」です。
しかもそれは、新たなに備える力ではなく、
小さい頃は誰しもが持っていた「無限に湧き起こる笑いの源泉」なのです。
ある意味、これはリハビリです。
昔はゆるゆるにゆるんで変幻自在だったら笑いの筋肉が、成長環境やストレス過多などによって、いつのまにか筋肉の緊張状態が続き、硬直し、笑いづらくなっている。
必要なことは、そこを解きほぐすだけ。
ただ人によって筋肉の硬直具合、脳の神経回路とのつながり具合が異なるため、リハビリ期間も異なるということだけ頭に入れておいていただければと思います。
笑い総研では、こういった笑いの力を引き出すための笑いヨガ(ラフターヨガ)の企業研修プログラムを提供しています。NHKおはよう日本や、日経新聞でも特集されています。関心ある方は、どうぞお問い合わせください。
[blogcard url=”http://warai-souken.co.jp/contact”]まとめ
「企業のメンタルヘルス対策に「笑い」が有効な5つの理由」、いかがでしたでしょうか。
1、心身をリフレッシュできる
2、人間関係(=職場の雰囲気)がよくなる
3、感情労働対策になる
4、自信、自己肯定感に直結する
5、手軽に、簡単に取り入れることができる
メンタルヘルスは、日本の大きな社会課題です。会社の人間関係や仕事のプレッシャー、プライベートの問題など、様々な要因が重なってメンタルヘルス課題は生じます。
「笑い」だけでなく、総合的な環境整備が必要です。
ただ、そうした取り組みを進める上で、笑いの要素があるとないのとでは大きく違いが出るはずです。大切なのは、退職者の方から訴えられる、自殺者が出るなど、取り返しのつかないことが起こる前に、予防策を事前にとっておくこと。
健康でしあわせに働くことのできる会社、そして社会の実現に笑い総研も邁進してまいります。